(1)はじめに
腰痛症は、大なり小なりほとんどの人が一度くらい経験するポピュラーな病気でありながら、なかなかすっきりと良くならない病気の一つです。
高崎さと鍼灸院では、腰痛を治してほしいとご来院される方は比較的少ないのですが、お話の中で、『腰痛「も」あります』とおっしゃる方は少なくありません。そこで今回は、代表的な腰痛症について解説し、あわせて腰痛体操とツボを使った対処法をご紹介させて頂きます。
(2)腰痛症とは
腰痛には、内臓疾患によるものや、腰椎の圧迫骨折など脊椎の疾患によるものもありますが、内臓や骨に大きな異常がないにも関わらず発生する腰痛を『腰痛症』と呼びます。
腰痛症では、骨盤の腸骨稜(腰のベルトが当たるライン)の周囲から仙骨(臀部の中心)のあたりにかけて痛みやコリに似た感覚が起こります。
腰椎症を起こしやすいのは、前かがみになる姿勢で長時間作業をする人、重い荷物を持ちあげる機会の多い仕事の人、椅子に座って頸部を前屈気味にして仕事をするデスクワークの人などです。
デスクワークなどの重労働ではない仕事なのに腰痛症をおこすのは、頚部は背中の筋肉によって腰とつながっているので、うつむくような姿勢で長時間作業を続けると、背部や腰部の筋肉も長時間引っ張られる結果になり腰に痛みがでるからです。
また、職業に関わりなく、運動不足によって腹筋や背筋が弱体化して、腰痛に悩まされる場合も少なくありません。
(3)腰痛症の代表的なタイプ
腰痛症の代表的なタイプを以下に4つご紹介します。
1.筋・筋膜性腰痛
重いものを持ったり、長時間中腰の姿勢を続けた後に立ち上がった時に痛みが出るものです。筋肉の血行が悪くなるため起こるとされています。「ぎっくり腰」はこの部類に属します。
【特徴】
①同じ姿勢を長時間続けていると起こります。
②痛みが軽くなったら、安静にしているよりも軽い運動をしたほうが回復が早まります。
③ぎっくり腰を何度も繰り返すような場合は早めの治療が必要です。
④鍼灸治療の効果があらわれやすい腰痛症です。すぐに鍼治療を受ければ1~2回で良くなることも多いです。
⑤軽い運動を日頃から行なうことで予防できます。
2.椎間板性腰痛
椎間板が加齢ととともに擦り減って薄くなったり、変形を起こして痛みが出る腰痛です。整形外科で、「骨と骨の間がせまくなっている」と言われたらこれが該当します。変形性腰椎症と言われることもあります。
【特徴】
①椎間板の変形自体はもとに戻りません。
②鍼灸治療や腰痛体操で血行を良くし筋肉を和らげることで、悪化を防ぎ痛みを緩和します。
③軽い運動で予防し、良くなったら負荷をかけ筋力をつけることも大切です。
3.筋疲労性腰痛
筋力の低下や、長期にわたる筋肉の疲労によっておこる腰痛です。朝起きた時に痛く、動かしていくうちに徐々に痛みが楽になる状態ならこのタイプです。
寝ている時はじっとしているために血行が悪くなり痛みが出て、動くことにより血行が良くなって痛みがやわらぐこともわかるように、血行改善が特に大切です。
【特徴】
①冷えや天候に左右されやすい腰痛です。
②冷やさないような工夫が必要で、厚着をしても冷えるようならホッカイロなどを使ってください。
③朝起きた時や寝る前に、ストレッチや腰痛体操を心がけてください。
⑤鍼治療により改善しますが、比較的長期の定期的な鍼治療をおすすめします。
4.椎間板ヘルニア
足のしびれの代表疾患です。脊椎下部の椎間板の髄核が突出して、神経根や脊髄などを圧迫することによって痛みやしびれが起こります。ヘルニア自体は時間の経過とともに自然退縮することもあるため、痛みの緩和が治療の中心になります。
【特徴】
①急性期で痛みがひどい場合は、痛みが落ち着くまでは安静を保ってください。
②鍼灸治療でも比較的治りにくい腰痛です。ある程度、間隔を詰め回数を重ねることが必要です。
③足のしびれがある場合、腰部の椎間板ヘルニアではなく、脊柱管狭窄症や頸椎の圧迫による場合もあります。一度整形外科で診断してもらうことをおすすめします。
(4)腰痛体操
発症直後の急性期を過ぎて、痛みがある程度治まってきたら、不良姿勢の改善、筋力の増強、腰部の靭帯などの硬さの改善のために、以下の腰痛体操を寝る前、起きる前に継続して行うことが有効です。
なお、痛みを誘発しないよう、無理をせず、できる範囲でゆっくり行ってください。
いずれも、ヨガマットや堅い布団などに寝転がって行います。
1.お尻上げ体操
①仰向けに寝て足を肩幅に開き、両ひざを立ててお尻を上げます。
②お尻が締まっているのを感じながら、5秒間キープします。
③お尻をゆっくり下ろします。
④①~③を10回繰り返します。
2.両足かかえ運動
①仰向けに寝ころんだ状態で、両手で両ひざを抱えます。
②腰が伸びるのを感じながら、胸の方に利用ひざを引き寄せ、10秒間キープします。
③両手を離し、リラックスします。
④①から③を5回繰り返します。
3.かんたん腹筋運動
①仰向けに寝て少し足を開き、両ひざを立て、両手で頭の後ろを抱え頭を少し上げます。
②腰は床に付けたまま、おへそを見るイメージで上体を10~20㎝上げます。
③この状態で5つ数えます。
④最初は5回からはじめ、少しずつ数を増やして最終的に10回程行えるようにします。
4.腰を伸ばす「ばんざい」運動
①両手両足を床に付けたまま「ばんざい」をします。
②そのままだと腰が床から浮いているので、ゆっくり腰を床に付けるようにして5秒間息を吐きます。
③力を抜いて息を吸い、リラックスします。
④①~③を5回行います。
(4)家庭で簡単ツボ療法
自宅で簡単にできるツボ療法です。
腰が痛んだり重いと感じた時、セルフケアとしてお試しください。
1.志室(ししつ)
場所:背中側のウエストライン上で、背骨から指4本分外側。
効果:腰痛改善、免疫力アップ。
手技:親指をツボにあて、息を吐きながらゆっくり押し、吸いながらゆっくりを緩める。左右同時に6~8回行う。
2.委中(いちゅう)
場所:ひざの裏、しわの真ん中のあたり。
効果:腰痛改善。背中やひざの痛み。
手技:親指をツボにあて、強すぎず弱すぎないようにゆっくり押す。左右同時に6~8回行う。
3.大腸兪(だいちょうゆ)
場所:背中側の骨盤のラインで、背骨と接するところ。
効果:腰痛改善、便秘や下痢の改善。
手技:親指をツボにあて、息を吐きながらゆっくり押し、吸いながらゆっくりを緩める。左右同時に6~8回行う。
4.帯脈(たいみゃく)
場所:へその高さの脇腹で、骨盤と接するところ。
効果:腰痛改善、血行改善、ホルモンバランスの調整。
手技:親指をツボにあて、息を吐きながらゆっくり押し、吸いながらゆっくりを緩める。左右同時に6~8回行う。
(5)腰痛症の鍼灸治療
腰痛症を治療する場合、背中やその周囲の筋肉も緊張しているので、いきなり腰に施術することはありません。まず頚部から背中のツボに施術して首から背中までの緊張をほぐすことから治療を始めます。
そのうえで、上記に記したようなツボを使って腰の緊張や痛みをとっていきます。
また、腸骨稜の周辺や、足関節周辺にも腰痛で痛みが生じるツボがあるので、それらに対する施術も重要なポイントです。
腰痛症の痛みに対する鍼灸の効果は、タイプによっても大きく変わるのでその見極めも大切です。当院では、問診も含めて丁寧な診断を行うことで、腰痛症の改善を図っています。お悩みの方は一度ご相談ください。
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